大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)33号 判決 2000年8月03日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が平成九年一月一七日付でした、次の相続税物納申請に対する物納財産変更要求通知処分を取り消す。
一 原告が平成五年五月二六日にした相続税物納申請(ただし、平成六年二月二四日に物納を求めようとする税額及び物納申請財産を変更したもの)
二 原告が平成六年一一月二五日にした相続税物納申請
第二事案の概要
本件は、原告がした相続税物納申請に対し、右物納申請に係る財産(以下「本件申請財産」という。)が相続税法四二条二項に規定する「管理又は処分をするのに不適当な財産」であることを理由として被告が物納財産変更要求通知をしたため、原告がその取消しを求めるものである。
一 前提事実(当事者間に争いのない事実又は容易に認定できる事実)
1 原告は、平成三年七月二九日に死亡したAの相続人である。
2 原告は、Aの死亡による相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、平成五年五月二五日、所轄の兵庫税務署長に対し、納付すべき税額を五五六四万八八〇〇円と記載した相続税の申告書を提出し、同月二六日、その相続税額のうち、三二一七万〇三七一円につき、金銭の納付が困難であるとして、右金額を物納を求めようとする税額として記載した相続税物納申請書を同税務署長に対して提出した(以下「平成五年物納申請」という。)。平成五年物納申請に係る財産は、西宮市α八〇六番一所在の土地ほか四筆の土地等であった。
原告は、平成五年一二月一〇日、平成五年物納申請のうち、西宮市α八〇六番一所在の土地の物納申請を取り下げた。
兵庫税務署長は、平成六年二月八日付で、平成五年物納申請につき物納財産変更要求通知書を原告に対して発送した。
原告は、平成六年二月二四日、兵庫税務署長に対し、物納を求めようとする税額を一九一六万四八六〇円と記載した相続税物納申請書を提出し(以下「変更後の平成五年物納申請」という。)、別紙不動産目録記載の不動産(以下「本件申請財産」という。)の物納を申請した。
原告は、平成六年一一月二五日、兵庫税務署長に対し、納付すべき税額が一九二七万七九〇〇円増加する旨の相続税の修正申告書を提出し、同日、右増加する相続税の一部(四三五万七八三七円)につき、金銭の納付が困難であるとして、相続税物納申請書を提出し(以下「修正に係る平成六年物納申請」という。)、本件申請財産の物納を申請した。
3 兵庫税務署長から徴収の引継を受けた被告は、平成九年一月一七日、変更後の平成五年物納申請及び修正に係る平成六年物納申請に係る財産である本件申請財産の変更を求める旨の相続税物納財産変更要求通知処分(以下「本件処分」という。)をした。
4 原告は、平成九年二月三日、本件処分につき被告に対して異議申立てをしたが、被告は、同年四月二二日、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。
5 そこで、原告は、同年五月一二日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年二月二七日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
二 争点及び当事者の主張
1 本件申請財産が相続税法四二条二項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産に当たるかについて
(一) 被告の主張
(1) 国税は、国の財政を支える歳入資金を調達するためにあるのであるから、物納された財産は、国が管理し、他に処分して歳入資金に充てる必要がある。このような見地から、相続税法四二条二項は、物納できる財産の種類を列挙するとともに、換価性の高いものを優先することとし、更に、同項ただし書において、申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においてはその変更を求めることができる旨を規定している(このように、物納財産の変更は税務署長の権限として規定されており、物納制度を納税者の権利として規定する形式とはなっていない。)。
そして、物納財産の管理又は処分の適否は、国が当該財産の管理又は処分により、金銭による税納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるかという観点から判断されるべきである。したがって、物納の許可を受けるためには、国が対象物を管理又は処分するにつき、事実上、法律上の障害がないことが要件となる。徴税実務においては、売却できる見込みのない不動産を「管理又は処分をするのに不適当」な財産としているが(相続税法基本通達四二―二)、ここにいう「売却できる見込み」とは、当該財産の地目、用途を前提として、収納時の現状で適切な売却価額を実現する見込みと解すべきものであって、地目、用途、収納時の現状を無視しておよそ換価可能性があれば足りるとするものではない。
(2) 別紙不動産目録2ないし5記載の山林(以下「本件山林」という。)について
① 原告が提出した「隣接地の境界に関する同意書」添付の平面図(乙一の2、以下「本件平面図」という。)と本件申請財産を含む土地に係る公図(乙二の1、2、以下「本件公図」という。)を比較すると、本件公図には神戸市β三〇九九番(以下、同所所在の土地は地番のみで表示する。)の土地が本件山林を分断するように描かれているが、本件平面図にはそのような記載はなく、本件申請財産の所在及び形状がこれらの図面において全く異なる。
② 本件公図では、三〇九六番一の土地が本件山林と隣接関係がないように描かれているが、本件平面図では隣接している。
本件平面図には、本件山林として四筆の土地が記載されているが、本件申請財産をかつて所有していた日本国有鉄道が作成した管理図面(甲一八、以下「国鉄図面」という。)の本件山林に相当する部分には二筆の土地しか記載されていない。
本件平面図によれば、本件山林の左側に隣接している土地は三筆なのに対し、国鉄図面によれば、一筆である。
本件平面図、本件公図、国鉄図面の記載には、このように土地の隣接関係に齟齬がある。
③ 国鉄図面と本件平面図では、尾根(稜線)の形状が異なる。原告は、この点につき、隣接地所有者と境界について合意できていると主張するが、右合意の結果作成された本件平面図と本件公図及び地積測量図(甲二〇)との間で、隣接関係が異なり、「隣接地の境界に関する同意書」(乙一の1)記載の隣接地所有者が、真実、本件山林の隣接地所有者全員を網羅しているか否かいまだ確認できないのであるから、本件山林の範囲をめぐる紛争が起きる可能性がないとは認められない。
④ 本件山林の不動産登記簿上の地積の合計は四二四〇平方メートルであるが、原告が提出した求積図(乙三)上の本件山林の地積の合計は五〇二六・〇三平方メートルであり、両者の間に七八六・〇三平方メートルもの差が存在する。このような齟齬がある以上、本件山林については地積更正登記が必要である。
⑤ 原告は、被告に対して提出した上申書において、隣地所有者が、この地域の公図が極めて不正確かつ現状とかけ離れており、全体をまとめて訂正するなら協力するが、一部だけの訂正は一切応じられないと述べた旨及び右協力が得られないために地積更正登記ができない旨を述べている。
⑥ 仮に本件公図上の一部の土地の隣接関係について同意が得られたとしても、公図全体からすれば全く異なる土地の隣接関係が発生する可能性は否定できない。
(3) 別紙不動産目録1記載の雑種地(以下「本件雑種地」という。)について
① 本件雑種地については、γ川の河川敷地との官民境界が確定していない。
② 原告は、本件雑種地とそれに隣接する三〇九六番五の土地の境界が不明であり、裁判所で争うことも考えている旨を国税不服審判所長に対して申し立てている(乙四)。
(4) 以上を前提とすると、本件申請財産は、地積更正登記、公図訂正、γ川との境界に関する官民協定申請がいまだなされていない境界未確定の不動産で、相続税基本通達四二―二にいう「境界線が明瞭でない土地で、隣接地主から境界線に異議のない旨の了解が得られない土地」に当たる。すなわち、被告が本件山林を現状のまま物納財産として収納後、売却処分を行うとした場合、収納時の現状での適切な売却価額を実現するためには、国において権利関係を明確化するために、地積更正登記、その前提としての公図訂正、境界確定等の作業を行うことが必要となることは容易に推認できるが、このような結果は、物納制度の趣旨に反するというべきである。また、本件申請財産は、市街化調整区域内に所在し、開発行為等に都市計画法上の許可を要する物件であるから、売却が極めて困難である。
(5) 相続に係る課税価格の評価は、相続開始時における当該相続財産の時価(相続人の取得した財産についての使用、収益、処分の利益の総体的評価による。)によりされるが、この評価がされたからといって、必ずしも当該相続財産が物納財産として管理又は処分に適しているとしてされたものではない。
(二) 原告の主張
(1) 相続税法は、金銭納付困難との事由により物納の申請があった場合は、明白に管理又は処分に適しないものでない限り、できるだけこれを許可すべきものとしていると解すべきである。
(2) 本件山林について
① 本件公図において本件山林を二分したことになっている三〇九九番の土地は、本件山林の西側に位置しており、同地の所有者もそのことを確認の上、本件申請財産の「隣接地の境界に関する同意書」に署名、押印している。三〇九九番の土地が公図のような形状であるとすると、登記簿上の地積の数倍もの面積となり、本件申請財産周辺の縄延び率が二〇パーセント弱であることに比較して余りにもかけ離れており、そのことからも、本件公図の記載が誤りであることは明らかである。
そもそも、公図は、その作成の時期、経緯からして、しばしば現地に符号せず、その精度に疑問があり、特に山林においてはそれが著しい。このように精度、正確さにおいて大いに疑問のある公図と、資格のある土地家屋調査士が調査して作成した実測平面図である本件平面図とをただ機械的に対比して本件平面図の正確さを論難するのは当を得ない。
② 地積測量図と本件平面図とでは、隣接地ないし周辺地の地番の表示が異なるが、これは、分筆図面を作成するに当たって、直接隣接しない土地の地番については、調査・確認の必要がないため、しばしばその表示が不正確であることによるにすぎない。
本件平面図と地積測量図を比較すると、本件平面図において三一〇六番二三と記載されている部分に、地積測量図においては三一〇六番一と記載されているが、これは、後者が誤記であり、それは本件公図上の三一〇六番二三の記載がほとんど読みとれないことに起因することは明らかである。これがために、隣接関係が確定するに至っていないとか、記載されていない隣接土地所有者が存在する可能性が認められるということはない。
③ 国鉄図面と本件平面図では、尾根(稜線)の形状が異なる。しかし、これは、原告が隣接地所有者立会の上、本件山林の境界を確認した際、尾根側の隣接地所有者のBが主張する境界を原告が受け入れたためであり、将来とも隣接地所有者がこれを争うことはあり得ない。
④ 山林地においては相当な縄延びが存するのは公知の事実である。相続税基本通達四二―二によると、「境界線が明確でない土地で、隣接地主から境界線に異議のない旨の了解が得られない土地」は物納をするのに不適格な財産とされているが、「既存の登記関係書類等により境界線が明確であり、かつ、隣接地主との間に争いがない事実が確認できるものを除く。」とのただし書がある。右通達は、公図訂正や地積変更登記は要求していない。本件申請財産は、後記のとおり、国有地から日本国有鉄道、芦有開発株式会社、原告の被相続人であるAと、順次所有権が移転したが、地積更正登記はされていない。すなわち、本件申請財産を管理又は処分するのに地積更正登記は不可欠でないということである。
⑤ 公図訂正については、隣地所有者らは、公図全体の訂正には応じられるが一部の訂正には応じられないと述べているのではなく、本件公図にみられるいくつかの間違いを単独で訂正することは不可能で、公図訂正をする場合は本件申請財産を含む地域全体を訂正する必要があるとの共通認識があるというにすぎない。
⑥ 本件山林については、隣接地主から境界に異議がない旨の了解を得ている(乙一の1、2)。隣接関係については、前述したように、同意書に署名しなかった隣接地主が現れる可能性はない。したがって、前記相続税基本通達四二―二によっても、本件山林は物納不適格財産ではない。
(3) 本件雑種地について
① 本件雑種地については、一部境界が確定していないのは河川敷地との官民境界のみである。それが確定できないのは、もっぱら河川管理者の職務懈怠によるものであるが、それとても河川管理者の意向次第でいつでも境界明示ができるものである。したがって、本件申請財産が物納不適格財産であるということはない。
② 隣接する三〇九六番五との境界は法務局備置の地積測量図(甲二〇)によってその境界は明確である。
(4) 被告は、本件申請財産が市街化調整区域に所在しており、開発行為に都市計画法の許可を要するから、売却が極めて困難であると主張する。市街化区域であっても、開発行為には許可を要するが、そのことはさておくとしても、本件物納申請は、山林及び雑種地を山林及び雑種地として物納しようとしているのであり、宅地ないし宅地化可能な土地として物納しようとしているのではないのであるから、山林、雑種地として換価可能である限り、物納不適格とはいえない筈である。
(5) 被告が主張するように本件申請財産の境界線が明確でなく、隣接地主も特定できず、登記簿上の面積と原告提出の求積図(乙三)の面積との間に大きな差があり、したがって本件申請財産が特定されていないのであれば、そもそも本件申請財産の相続財産としての時価を評価することができない筈である。それにもかかわらず本件申請財産については相続税の課税価格計算の基礎となる財産の評価がなされている。
2 被告が本件申請財産は相続税法四二条二項ただし書にいう「管理又は処分をするのに不適当」な財産に当たると主張することが信義則に反するか。
(一) 原告の主張
本件申請財産は、すべてもと国有財産であったが、昭和二四年六月一日、日本国有鉄道に承継され、日本国有鉄道において用途廃止となった後は、大蔵省普通財産として管理され、それが、昭和三六年三月三一日、芦有開発株式会社に売り渡され、昭和四六年七月一七日、原告の被相続人であるAに売り渡されたものである。その後、土地の形質、形状に何ら変更はない。
大蔵大臣は、長年にわたり本件申請財産を管理していたのであって、日本国有鉄道においても、特定の行政目的に供される財産として、国有財産に準じた適切な管理がされていた筈である。その財産について、同じ国の行政機関である被告が特定性を否認し、管理又は処分に法律上又は事実上の障害があると主張するのは、信義則に違反する。
(二) 被告の主張
本件申請財産の所有権が国から日本国有鉄道に移転した原因は、昭和二四年六月一日の日本国有鉄道法の施行に伴って、法律上当然に承継されたのであって、売買契約によるものではない。日本国有鉄道の財産管理の性格については、日本国有鉄道法四五条で処分に制限が加えられている以外は私人間の売買と同様、民法が適用されるところであり、国有財産法は明文をもってその適用を排除されている(日本国有鉄道法六三条)。よって、財産の管理に関する法の定めも国有財産とは異なる以上、右事実をもって、直ちに被告の信義則違反は生じない。更に、右売却の範囲と芦有開発が原告の被相続人Aに売却した範囲とが厳密に一致するかは確認できない。国鉄図面記載の本件山林に相当する部分と本件平面図記載の本件山林部分はその形状及びその範囲内に含まれる土地の筆数が一見して異なり、国鉄が所有していた土地の範囲と本件山林の範囲が厳密に一致しているとは到底いえない。そればかりか、芦有開発とAとの間の売買契約書(乙九)には、芦有開発は物件と隣接地との境界の明示は行わないものとする、ただし、Aの要請があった場合、芦有開発が大阪鉄道管理局から譲り受けた測量原図に基づいてセンター杭を打設するものとする旨が定められており、右売買契約の際、本件申請財産が他の隣接地と明確に区別できていたか疑問がある。
第三当裁判所の判断
一 相続税法は、一時に多額の相続税を金銭で納付することを要する事態が発生することがあることに鑑み、そのような事態に対応することが困難な納税者を救済するために、物納制度(同法四一条以下)を採用している。しかし、同法四二条二項ただし書は、税務署長は、物納申請に係る物納財産が「管理又は処分をするのに不適当であると認める場合」においては、その変更を求めることができる旨を規定している。これは、相続税も、他の同税同様、これをもって国の経費を支弁することを本来的な目的とするものであるから、金銭又はこれに準ずる有価証券により納付することを原則とし(国税通則法三四条一項)、相続税が物納された場合においても、国が物納された財産の管理又は処分を通じて金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないからであると解される。相続税法四一条二項、三項が物納に充てることができる財産の種類を限定するとともに、物納に充てることができる順位を定めているのも、換価性の高い財産をもって物納に充てることが相当であるとの趣旨に出たものと理解される。右に述べたような物納制度の趣旨からは、物納申請に係る財産について、国がこれを管理又は処分するについて、法律上又は事実上の障害がある場合は、同法四二条二項ただし書にいう「管理又は処分をするのに不適当であると認める場合」に該当するというべきである。そして、ここにいう法律上又は事実上の障害とは、法律上又は事実上不可能であることまでも意味するものではなく、管理又は処分を困難ならしめることのある事情の存在をもって足りるものと解すべきである。
二 以上の観点から、本件申請財産が相続税法四二条二項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産に当たるか否かを検討する。
1 まず、証拠(甲六ないし九、一八、二〇、二四、乙一の1、2、乙二の1、2、乙三、四、八、一一の1ないし5、証人Cの証言、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨によれば、本件山林の形状、面積、境界の状況等について、以下のとおり認められる。
(一) 本件山林は、四筆の土地からなるが、本件平面図(乙一の2)においては、これらは一団の土地とされているのに対し、本件公図(乙二の1、2)によると、本件山林はこれに属しない三〇九九番の土地により二つに分割されており、東側に位置する三〇九八番一、三〇九七番一、三一〇六番二三の三筆の土地と、西側に位置する三一〇〇番二の土地とからなるものとされている。
(二) 国鉄図面(甲一八)と本件平面図(乙一の2)を比較しても、本件山林の北側部分の形状が、前者においては北側にやや膨らんだ凸状をなしているのに対し、後者においては南側にややへこんだ凹状をなしているとの差異がある。
(三) 本件山林の面積は、不動産登記簿上の面積の合計は四二四〇平方メートルであるのに対し、原告が物納申請に当たって提出した求積図(乙三)によれば、合計五〇二六・〇三平方メートルであり、後者は前者に比して約一八・五パーセント大きい(右(二)の点について、原告が主張し、原告本人が供述するように、本件平面図記載の北側の境界は国鉄図面の方がより正確であったのに、原告が北側隣地の所有者に境界を譲ったのであるとすると、本来の境界に従った場合の本件山林の面積は求積図の面積よりも広くなるものと考えられるから、不動産登記簿上の面積との差異はより大きかったことになる。)。
(四) 本件公図によれば、三〇九六番一の土地は本件雑種地の西端に食い込む形で接しているが、本件平面図においては、本件山林の西に接している(証人C、乙一一の3、4)。
(五) 本件山林を公図上分断した形になっている三〇九九番の土地について、原告が本来その西に隣接すると考える三一〇一番の土地所有者は三〇九九番の土地と三一〇一番の土地の境界について同意しておらず、三〇九九番の土地について公図訂正ができるか否か不明である(原告本人の供述)。
2 次に、本件雑種地については、二級河川であるγ川の河川敷との官民境界が不確定である(当事者間に争いがない)。河川管理を担当する兵庫県神戸土木事務所は、右官民境界について現在の堤防の一メートル陸側であるとの見解を示したが、原告は、これでは右堤防を築造する護岸工事の際に本件雑種地を河川区域に取り込んだことになり、本来の境界は兵庫県土木事務所の見解とは異なると認識している(甲二四、原告本人)。
また、原告は、本件雑種地とそれに隣接する三〇九六番五の土地の境界の確定について三〇九六番五の土地所有者の同意が得られていないため、裁判所で争うことも考えている旨を国税不服審判所長に対して申し立てている(乙四)。
3 以上によると、本件山林については、本件平面図、本件公図、国鉄図面、登記簿を比較すると、その形状、隣接関係、面積に種々の齟齬が存在することが認められる。
原告は、その齟齬について合理的な説明を試み(甲二四、原告本人の供述)、確かに、その内容には首肯し得るものも存在するし、右の齟齬の発生については原告には帰責事由は存しないといえるが、現に本件平面図と本件公図との間に一見して明らかな齟齬が存在すること、本件山林を公図上分断した形になっている三〇九九番の土地について、原告が本来その西に隣接すると考える三一〇一番の土地所有者は三〇九九番の土地と三一〇一番の土地の境界について同意しておらず、三〇九九番の土地について公図訂正ができるか否かは不明であること等に照らすと、本件公図が訂正されないままでは、本件山林を管理又は処分するのに事実上の障害が存在するということを否定し得ない。
本件雑種地については、γ川河川敷との境界が未確定であるところ、原告は、右境界は河川管理者の意向によりいつでも協議でき、確定できると主張する。しかし、原告は右境界について河川管理者側の主張を争っている事実が認められるし、そのことはさておくとしても、そもそも、γ川は二級河川であるから、河川管理者は兵庫県知事であり、国の意向により境界を確定できるものではない。
本件雑種地(三〇九六番二)に隣接する三〇九六番五との境界につき、原告は三〇九六番五の分筆に当たり作成された法務局備置の地積測量図(甲二〇)によってその境界は明確である旨主張する。しかし、右地積測量図は、分筆当時の所有者が分筆する土地である三〇九六番五の土地を測量した図面であり、分筆前の三〇九六番二全体を測量してその位置、形状を確定したものではないから、残地である本件雑種地に関して必ずしも正確性を期待できるとはいえない。現に三〇九六番五の現在の所有者とは境界について見解が一致していないことは、前記認定のとおりである。
そうすると、本件雑種地についても、境界が明確ではなく、管理又は処分をするのに事実上の障害が存在するといわざるを得ない。
三 原告は、本件申請財産は大蔵大臣や日本国有鉄道が長年にわたり管理することができたのに、同じ国の行政機関である被告が、原告に対して、本件申請財産が管理又は処分につき法律上又は事実上の障害を有する旨主張するのは信義則に違反する旨主張するが、前記のとおり、物納財産の管理又は処分についての法律上又は事実上の障害とは、管理又は処分が法律上又は事実上不可能であることまでも意味するものではなく、管理又は処分を困難ならしめることのある事情の存在をもって足りるものと解すべきである。したがって、現に国又は国有企業において管理又は処分がされてきたからといって、必ずしも、管理又は処分をするについて法律上又は事実上の障害が存しないことにはならないから、本件申請財産について国の行政機関である被告が本件申請財産につきその管理又は処分に法律上又は事実の障害が存在する旨を主張することは何ら信義則に反するものではない。
四 以上によれば、原告の本訴請求は、理由がない。
(裁判長裁判官 山下郁夫 裁判官 青木亮 裁判官 坂本浩志)